2025年秋、AppleはiPhone17シリーズを発表し、日本国内モデルはすべてeSIM専用化※しました。これまでの物理SIMスロットは姿を消し、通信環境は完全にeSIMへ移行します。
※iPhone17シリーズのeSIM対応状況は国別で異なります
「海外で現地の物理SIMカードを入れられないのは不便では?」「海外で文鎮化したらどうするの?」――こうした不安な声は当然です。
しかし、不安の声が上がるのを予想した上で、AppleはiPhone17のeSIM専用化に踏み切りました。
AppleがiPhone17のeSIM専用化を促進した理由は、物理SIMスロット廃止による下記のメリットがあるからです。
物理SIMスロット排除のメリット
- バッテリー容量の増加:内部スペースが確保され、電池持ちが向上
- 軽量・薄型化:デザイン面での自由度が拡大
- セキュリティ強化:SIMカード盗難や差し替え悪用のリスクを低減
- 防水・防塵性能の向上:開口部がなくなることでIP等級が高まりやすい
- 新機能スペース確保:MIE(Mobile Identity Engine)など次世代モジュールの実装に寄与
また、技術的な側面だけではなく、eSIM化はプラスチック製SIMカードの廃止につながり、年間18,000トン※のCO2削減や廃棄物、物流コスト削減といった環境問題解決の潮流にもなっています。
参考調書:https://www.juniperresearch.com/resources/blog/how-environmental-concerns-are-driving-esim-isim/
本稿では海外通信の専門家の立場から、eSIMの課題とその解決策、さらに海外利用における新しい可能性と環境面での意義について解説します。

Contents
海外で物理SIMの方が便利?eSIMが不便とされる5つの理由
eSIMは不便で、海外旅行には「物理SIMカードの方が安くて便利」という根強い声が一定数はあります。その大きな理由を5つ順番にひも解いてみましょう。
eSIMが不便な理由
- 5Gが使えないケース
- 音声通話・SMSに未対応のeSIMが多い
- 価格が現地SIMより高い
- 文鎮化したときの対処が困難
- SIMカードのように差し替えて使えない
1. 5Gが使えないケース
旅行者向けに提供されるトラベルeSIMの多くは、データローミングを利用するため、現状では4G/LTEに制限される場合があります。せっかく5G対応のiPhoneを持っていても「海外では4Gしか使えないの?」と不安に感じる方も多いでしょう。
これは、eSIM事業者が現地キャリアのネットワークを借りてサービスを提供する仕組みのためです。どの回線を利用できるかは、eSIM事業者と現地キャリアとの契約条件や、その国の通信インフラの整備状況に依存します。
日本でも格安SIM(MVMO)は大手キャリア(MNO)の回線を借りると、MVMO側に割り当てられる5G回線は制限されたり、時間帯や回線の混み具合で割り当ての優先度が下がるのが一般的です。海外のローミング回線でも同じことが当てはまり、そこに国ごとで使える周波数帯の違いも影響して5Gが使えないという事態に直面します。
ただし、iPhoneシリーズが世界的にeSIM専用化する流れを受けて、各国キャリアも旅行者向けのローミング回線で5Gを開放せざるを得ません。今後は、より多くの国でトラベルeSIMによる5G通信が利用可能になっていくでしょう。
2. 音声通話・SMSに未対応のeSIMが多い
旅行者向けのeSIMは、データ通信専用プランが中心で、音声通話やSMSができないものがほとんどです。地域によっては、長期滞在者向けに電話番号付きのeSIMプランも提供されていますが、短期旅行者向けではまだ選択肢が限られています。
eSIMプロバイダ側が価格を安く提供するために音声回線機能をカットしていたり、そもそもリソースを持っていないことが原因です。
「電話が使えると思ってeSIMを購入した。eSIMに電話番号がついていたので現地でSMSが使えると思った。」こういった利用者の声も存在します。
もしも、eSIMに電話番号(MDN)が割り当てられていても、データ専用回線の場合はeSIMを識別する電話番号のため、音声通話やSMS認証には使えません。
実際に、東南アジアの配車アプリ(UberやGrabなど)ではSMS認証が必須となるケースがあり、現地番号がないと新規登録できない場面も存在します。この課題は、旅行者にとって「想定外の不便」となりやすい部分です。
ただし、こうしたアプリのSMS認証に関しても、事前に日本の番号で登録を済ませておくなどの準備をしておけば解決できるケースが多くあります。この点については、次の解決策の章でさらに詳しく説明します。
3. 価格が現地SIMより高い
旅行者向けのeSIMは、利便性の分だけローカルSIMカードより割高になるケースが多いです。
空港で販売されているSIMカードは利便性が高い分価格も高めですが、街中の販売店では同じ容量でも安く購入できる場合があります。この点では「街中SIMの方が安い」という意見はその通りです。
eSIMの価格差に関しては、下記のnoteでも発信しているので、ぜひご参考にしてください。
また、日本国内でもAmazonやYahoo!ショッピングといったECサイトで事前に現地SIMを購入すれば、価格を抑えられることがあります。
一方で、eSIMは物理カードの入れ替えが不要で、到着直後から使える利便性が強みです。旅行者にとっては「数百円の節約」と「到着してすぐ使える安心感」のどちらを重視するか、天秤にかけることになります。
さらに、iPhone17のeSIM専用化をきっかけに、世界的に旅行者向けeSIM市場は競争が加速する見込みです。今後は価格差が縮まり、「安さはローカルSIM、便利さはeSIM」という構図も次第に変わっていくでしょう。
4. 文鎮化したときの対処が困難
海外でスマホが故障して文鎮化した場合、eSIM専用機種という弱点が露呈してインターネットの接続回復までに時間がかかる可能性があります。
物理SIMカードなら別のスマホに差し替えるだけでインターネット接続やSMS認証が受け取れますが、eSIMの場合は通信事業者からのeSIMプロファイル再発行をしないといけません。
eSIM販売元が営業時間外だと再発行までに時間がかかったり、そもそも通信手段が確保できない場合は、WiFiを探したり、SIMカードを別で購入しないといけません。
また、日本の大手キャリアのeSIMは再発行すれば別機種でもeSIMを利用できます。しかし、専用ページの本人認証プロセスに手間を要したり、キャリアのシステム障害が起きている場合にeSIMプロビジョニングをおこなうとアクティベートエラーになる懸念があります。
※eSIMプロビジョニングとは本人認証を実施してeSIMプロファイルをサーバーシステムから端末にダウンロードしてアクティベートするまでの一連の流れ
2025年9月19日(iPhone17の発売日)に発生したNTTドコモのeSIMのアクティベートエラーは、上記のeSIMプロビジョニングの過程における不具合が招いたものです。
【お詫び】eSIM対応端末においてeSIMの開通がしづらい事象
2025年9月19日(金曜)午後4時30分頃から、eSIM対応端末においてeSIMの開通がしづらい状況が発生しております。
1.発生日時
2025年9月19日(金曜)午後4時30分頃から継続中2.原因
確認中3.復旧見込み
確認中…— NTTドコモ (@docomo) September 19, 2025
システム側の問題でeSIMが利用できない場合は、ユーザー自身で解決することは非常に困難となります。
iPhone17が文鎮化したときのeSIM再発行プロセスや、現地でのインターネット接続には代替案は準備しておく必要があるでしょう。
5. SIMカードのように差し替えて使えない
さらに、eSIMクイック転送が手軽にできる日本の大手キャリアのeSIMとは異なり、短期のトラベルeSIMは最初にインストールした機種ではないと使えないケースが多いです。
eSIMプロファイルは、ダウンロード時に端末のEID(Embedded Identity Document)に結びつくため、最初にダウンロードした機種のeSIMを削除して別端末で再度インストールを試みても無効になります。
eSIMのEID紐づけ仕様はセキュリティ強化と不正利用防止のためですが、ユーザー利便性を損なう側面は認めるを得ません。
例えば、最初はiPadで使おうと思ってインストールしたが、やっぱりiPhoneで使いたかったと、eSIMを削除して再度iPhoneでインストールを試すと「このeSIMは有効ではありません。」と表示されます。
iPhoneとAndroidでSIMを差し替えて使っていた方も、今回のeSIM専用iPhoneでは同様の使い方も不可です。
多くの方は1台のスマホに1つのSIMを使っていると思いますが、仕事上どうしても複数機種を使わないといけない方は、今回のeSIM専用化は不便だと感じる方も多いでしょう。
そのため、海外では利用端末は最初に慎重に選ぶことです。また、複数機種で運用したい場合は別途SIMの購入を検討しないといけません。
海外でeSIMが便利な理由と方法論
eSIMには課題もありますが、利便性を考えれば、むしろ海外での利用には最適なテクノロジーといえます。
この章では、前半で槍玉にあがった海外利用でのeSIMの課題と問題解決への提起、そしてeSIMがそれでも便利といわれる理由とその方法論を考えていくことにします。
eSIMがそれでも便利な理由
1. 5G問題とマルチネットワーク対応のeSIM
2. データ専用回線のeSIMとSMS問題
3. 価格問題への見方
4. 文鎮化したときのリスクヘッジ
5. SIMカードが差し替えできない課題への解決策
1. 5G問題とマルチネットワーク対応のeSIM
海外利用で「5Gが使えるのか」は気になる点ですが、実際にはWeb閲覧や乗り換え案内、動画視聴といった主要な利用シーンでは、4G/LTEでも十分に快適に利用できます。短期旅行者にとって「5G必須」と言える場面はまだ多くありません。
それより重要なのは、どこでも安定して通信できるかどうかです。
ローカルSIMはその事業者のネットワークしか利用できませんが、多くの旅行者向けeSIMサービスは「マルチネットワーク(複数の現地通信プロバイダ)」に対応しています。
マルチネットワーク対応のeSIMなら複数のキャリア回線を自動で切り替えて利用できます。例えば、A社の電波が弱ければB社に自動的に接続する、といった冗長性が確保されます。
つまり「5Gが使えるかどうか」以上に、ネットワーク障害や電波の弱いエリアでバックアップ回線を持てる安心感こそ、マルチネットワーク対応eSIMの最大の強みと言えるでしょう。
2. データ専用回線のeSIMとSMS問題
確かに一部のタクシー配車アプリではSMSが必須だったり、現地の電話番号がお店の予約に必要だったりします。
しかし、UberやGrabなどのアプリは渡航前に日本の番号で認証を済ませておくことで解決できますし、デュアルeSIMを活用し、「データ通信は旅行者向けeSIM」「番号取得は現地キャリアeSIM」と使い分ければeSIM専用のiPhoneでも困ることはありません。
海外旅行で現地の電話番号が必要なケースはさほど多くはないため、完全な不便ではなく、日本での準備と現地での選択で解決できる課題だといえます。
3. 価格問題への見方
旅行者向けeSIMは、ローカルSIMより高くなる傾向がありますが、利便性と安心感を考慮するとeSIMの価値は大きいです。
eSIMの代表的な利便性を3つ挙げてみましょう。
eSIMの利便性
- 到着前に設定可能で、空港に着いてすぐ使える
- 言語の壁やショップ探しの手間を回避できる
- 紛失・盗難のリスクがない
上記3点がeSIMの利便性ではありますが、長期滞在や頻繁な海外旅行なら価格差の累積は無視できない金額になる場合もあります。
海外への短期渡航者にとって、価格を重視するか利便性を重視するかは個人の価値観によるでしょう。
ただし、今後はeSIMプロバイダの市場競争がさらに進めば、価格差も縮小していくことが期待できます。
4. 文鎮化したときのリスクヘッジ
もしiPhone17が海外で文鎮化したときには、Wi-Fiに接続して通信事業者のマイページからeSIMの再発行が必要になります。マイページログインでの2段階認証で、eSIMに紐づいた電話番号へのSMS認証などがあると、回復までの道のりは困難を極めるでしょう。
そのため、iPhone17以外でもインターネットに接続できる手段を持ち合わせておくことを推奨します。
特に一週間以上の長期旅行なら、iPhone17とは別にPixelのaシリーズやXiaomi、Oppoなど高性能な格安スマホをサブ機で持っておくとeSIMの再発行や、タクシー予約、乗り換え案内やMAPが見れるので安心です。
また、TripWiFiのような海外で使えるチャージ式のモバイルWiFiルーターなどを予め準備しておくのもリスクヘッジになります。
チャージ式のモバイルWiFiは1GB/500円~その場でデータ購入してすぐに使えるので、万が一、現地でeSIMが使えないという事態に陥った場合に持っておくと重宝するでしょう。
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iPhone17を海外でもストレスなく使うために、こうした最悪なケースに準備して備えておくことをおすすめします。
5. SIMカードが差し替えできない課題への解決策
誤って利用したい機種ではない別の機種にeSIMにインストールしてしまった場合は、eSIMプロバイダにeSIMが再発行できるかを確認しましょう。
一部の旅行者向けeSIMサービスでは、再発行に対応しています。ただし、再発行には時間がかかったり、再発行の回数制限やそもそも再発行に応じてくれない海外プロバイダも存在します。
購入前に再発行の可否やキャンセル規定など、サイトポリシーを確認しておくと安全です。
また、SIMカードを差し替えて使いたい方は、デュアルeSIMや複数プロファイルを活用することをおすすめします、
iPhoneや最新Androidは複数のeSIMプロファイルを保存できる※ため、メイン回線とは別に 旅行用eSIMを複数社から用意しておくと、1つのeSIMが使えなくてもすぐに切り替えが可能です。
※.iPhoneは8件程度保存可能、同時アクティブ化数は2件まで
つまり、差し替えはできませんが、バックアップeSIMを事前に入れておくイメージです。複数端末で使う場合は、複数のeSIMがどうしても必要になります。もしくは、テザリングでのデータシェアも検討するとよいでしょう。
今後の展望
GSMA(国際的な通信業界団体)は2010年頃からeSIMの普及を推進してきました。2025年7月時点で、世界の通信事業者の約69%(531社/206カ国)※がすでにeSIMを導入済みです。
※ 引用元:https://techround.co.uk/tech/the-rise-esim-what-privacy-concerns/
また、北米ではiPhone14以降でeSIM専用化が加速。EUも2027年までにeSIM標準化を推進しています。
日本国内モデルのiPhone17全シリーズeSIM専用化は、この流れをさらに加速させる象徴的な出来事です。プラスチック製のSIMカードを不要にすることで環境負荷を減らせる点も注目されています。
数年以内には、多くの人が「海外旅行ではeSIMを使う」という時代が訪れるでしょう。iPhone17によって不便になるどころか、世界的にeSIMの利用が標準化していく転換点といえます。
iPhone17シリーズの国別eSIM対応状況
日本以外では、物理SIM+eSIMが使えるiPhone17を販売する国もまだまだあります。
欧州や東南アジア圏などのように、日本のように端末サポート体制が十分でない地域も多く、中国本土では個人情報管理や国内市場保護の観点からeSIMの普及が抑制されています。各国の背景から、世界的に見てもiPhone17シリーズのeSIM専用化はまだ完全には進んでいません。
ここまでの解説をご覧いただいて、eSIM専用ではなく物理SIMが使えるiPhone17が欲しい場合は、技適マーク※がついているかに注意して海外版のiPhone17の購入を検討してみてください。
※技適マーク(技術基準適合証明マーク)とは、日本の電波法で定められた技術基準に適合した無線通信機器であることを証明するマーク
それでは、最新のiPhone17シリーズの販売国別のeSIM対応状況を確認しましょう。
eSIM専用モデル(物理SIM非対応)
以下の国・地域で販売される iPhone17 / iPhone17 Pro / iPhone17 Pro Max は、eSIM専用モデルです。
iPhone17eSIM専用の販売国
- アメリカ
- カナダ
- 日本
- メキシコ
- サウジアラビア、UAE、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン
- グアム、米領ヴァージン諸島
eSIM+物理SIM併用モデル
以下の地域では、nano-SIMスロットがあるため、物理SIMカードとeSIMを併用可能です。
iPhone17物理SIM対応の販売国
- ヨーロッパ諸国(フランス、ドイツ、イギリスなど)
- オーストラリア、ニュージーランド
- 韓国、シンガポール、香港、台湾 など
情報引用元:https://www.apple.com/jp/iphone/cellular/
SIMカードのみ対応:中国本土モデル
中国本土モデルは例外で、eSIMは非対応です。nano-SIMのみ利用可能です。
全世界eSIM共通モデル:iPhone17 Air
新登場のiPhone17 Air は、世界共通でeSIM専用です。中国本土を含むすべての地域でeSIMのみの対応となります。
結論 | eSIMは不便ではなく、海外旅行の新しいスタンダード
日本ではiPhone17国内モデルのeSIM専用化によって、「海外利用は不便になるのでは?」という声が出ています。確かに、5G非対応のケースやSMS認証の制約、価格の差といった課題は存在します。
しかし、それらは準備や運用の工夫で解決できるものが多いです。さらにeSIMには、マルチネットワーク対応による安定性や、SIMカード紛失リスクの軽減、渡航前に開通できる利便性といった明確なメリットがあります。
結論として、eSIMは物理SIMよりも不便ではなく、むしろ安全で利便性の高い選択肢です。iPhone17の専用化は、不安を増やす出来事ではなく、eSIMの利便性を日本国内に認知させる契機となるでしょう。
これ以外にも海外旅行に役立つ通信サービスの記事を沢山書いています。
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